GoogleのPS方針転換とWebの次の現実

2025年10月、GoogleはPrivacy Sandboxの複数APIを廃止すると発表しました。Privacy Sandboxとは、ユーザーのプライバシーを保護しつつ、デジタルビジネスを支援するための技術のことです。Cookie代替の模索は一段落し、現実解へ舵が切られた印象です。経営の現場で何を変え、何を守るのか?要点を整理してみます。

なにが起きたのか

  • ChromeはサードパーティCookieの扱いで“現行のユーザー選択を維持”(=全面廃止を直ちに進めない方針)。
  • そのうえで、Attribution Reporting、Topics、Protected Audience、Private Aggregation/Shared Storage、IP Protection、SDK Runtimeなど、Privacy Sandboxの中核と目されたAPI群の廃止を予告しました。廃止はプロセスに沿って段階的に進み、開発者サイトで随時案内されるようです。
  • 今後は、W3CのPrivate Advertising Technology WGにおける「相互運用可能なアトリビューション標準」など、より標準化・相互運用性の高いアプローチへ注力する方針です。

この動きは、2025年上半期の方針見直し(Cookie UXの再設計見送り)や、英国CMAのコミットメント見直しと地続きです。大型の“置き換え”から、現実的な漸進策へと重心が移りました。

この変化がもたらす影響

技術面(かみ砕き)

  • 計測(アトリビューション):ブラウザ専用APIに依存するより、標準化に基づく手法と、サーバーサイド計測(例:サーバー側タグ、コンバージョンAPI)の組み合わせが主軸に。過度にブラウザ独自仕様へ最適化した実装は見直し対象です。
  • ID・認証連携:FedCM(以前はWebIDと呼ばれていました)のように、採用が進む領域は継続。ただしサードパーティCookie前提のフローは、自社ドメイン内での完結や同意管理の再設計が必要です。
  • 広告配信・最適化:オーディエンス構築は、自社一次データの整備、コンテキスト(ページ文脈)の活用、クリエイティブ検証の地力が問われます。

仕事・組織面(現場の具体)

  • 短期:現行のCookie在庫に甘えず、サイトのCookie棚卸し(用途・保存期間・提供先)と代替案の試験運用を並行で。
  • 中期計測基盤の二系統化(ブラウザ依存×サーバー側)でリスク分散。媒体/ツール差異に耐えるモデル監査(計測差の把握と補正)を定常運用に。
  • 長期:広告だけに頼らない収益ポートフォリオづくり(会員・サブスク等)。“計測不能でも意思決定できる”KPIの再設計が鍵です。

生活者への影響(やさしい視点)

  • ポップアップだらけの同意体験が減る方向に進めば、閲覧体験は静かに良くなる可能性があります。対して“見えにくい計測”が増えると感じる場面もあると思われます。だからこそ、透明性(何を集め、なぜ必要か)の説明力が企業に求められます。

個人的見解としては・・

私の見解としては、今回の方針転換は「魔法の置き換えは来ない」という合図ではないかと思います。テクノロジーの大枠は“標準+一次データ+運用力”にまとまっていきます。ここで勝敗を分けるのは、派手なAPI比較ではなく、

  • データの取得根拠(法と同意)が明確で、
  • 社内で説明可能なKPI体系を持ち、
  • 変化に合わせて実験→学習→改善を回し続けられるか。

最後に。今回の発表は不安よりも自由度の回復ではないでしょうか。ある意味、原点回帰ともいえるのかもしれません。業界全体が相互運用を見据えて進めば、Webはもっとシンプルで強い武器なります。私たちは足場を固め、自分たちで測り、自分たちで学ぶ体制に切り替えていきましょう。

ABOUT US
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アイ・セプトの社長
株式会社プロトクリエイティブ(現 株式会社プロトコーポレーション)で、クルマ情報・生活情報をメインに、Webサイトや出版物、広告など、多岐にわたるメディアをアートディレクターとしてプロデュース。のちに、お客様の一番近くで仕事をしたいと考え、営業職にジョブチェンジ。

転職先では、新事業の拡大を担う草分けとしてプロジェクトマネージャーを担当し、最初は慣れないながらも、徐々に顧客の信頼を勝ち得て実績を積む。その後、東海圏と関西圏にある複数拠点をマネジメントするエリアマネージャーとなり、他拠点(福岡、札幌など)のアドバイザーも担う。そのほか、人事制度の策定や業務効率化を掲げた事業再生にも従事する。

そして2009年7月7日、インターネット戦略支援事業を軸とした『株式会社アイ・セプト』を設立して代表取締役社長に就任(現任)。2019年には北海道上川郡下川町にオフィス、2024年には秋田県秋田市に秋田オフィスを設立し、地域課題の解決に向けて精力的に活動中。