「うちの会社も生成AIを使っていますよ」という言葉はよく聞きますが、手応えはどうなのか、今回はそんな話です。
PwC Japanグループが2026年6月に公表した6カ国比較調査によると、日本企業で生成AIを「活用中・推進中」と答えた割合は87%で、米国の90%、英国の89%、中国の91%、ドイツの89%、韓国の93%と大きな差はありませんでした。導入のスタートラインでは、日本は遅れていないと考えても良いでしょう。 mynavi
ところが、中身を見ると、その効果が「期待を大きく上回っている」と答えた日本企業は9%で、米国の38%、英国の32%と開きがあるのです。さらに「まだ効果を評価できていない」という回答も13%と、他国に比べて高めでした。 mynavimynavi
ジムに入会したけど・・ちゃんと取り組んでいるんだけど、なんだか効果が出ているのかどうかが、わからないような感じでしょうか(苦笑)
部分的な効率化で止まりがちな理由
私は、日本企業のAI活用は議事録の要約、メール文面の下書き、資料の骨子づくりといった、部分的な効率化に集中しやすいのではないかと感じています。これは調査で裏付けられた事実ではなく、あくまで私の推測です。ただ、使い始めとしてはごくごく自然なことではないかと思います。
問題とするならばその先です。PwCのパートナーは、現場でよくある落とし穴として「理論上の効果」を挙げています。「1人あたり30分削減できた」という試算はあっても、それが財務への影響や顧客への価値につながっているかまでは設計されていない、という指摘です。 mynavi
ジムに通って、少しずつ体重が減ってきた。それは確かに良いことです。でも、減った分で「何かチャレンジしよう」とか考えなければ、本当の意味で有意義なジム通いとは言えません。そんなところでしょうか。
コスト削減だけで、よいのでしょうか
AIの成果を「どれだけ安くできたか」だけで測るのは、もったいないと思います。削れるところを削るのは、いわば守りの話。伸ばせるところを伸ばす攻めの話も、同じくらい大事なはずです。
調査にも、この点を裏付ける数字がありました。AIで得た効果を従業員への利益還元や顧客への価格還元といった財務的な還元につなげている日本企業は40%で、6カ国で最も低く、米国の75%、英国の74%と大きな差があります。「還元していない」と答えた割合も19%と、日本が最も高い結果でした。 mynavi AIで生まれた余力の使い道は、いくつもあるはずなのです。例えば・・
- 働く人に返す。 社員の働き方を変え、賃金を上げる原資にする。社員にとっても会社にとっても、いちばん健全な循環だと思います
- 商品やサービスの価値を高める。 お客さまへの対応の質を上げる、提案の精度を上げる、といった使い方です
- 新しいものをつくる。 試作や検証のスピードが上がれば、新商品の開発も加速するかもしれません
- 地域や社会の課題に向ける。 人手不足や情報格差など、地域で起きている課題の解決に、浮いた力を使えるかもしれません
危機感はある。でも、次の一歩が見えにくい
もうひとつ気になるデータがあります。生成AIを「業界構造を根本から変革するチャンス」と見る日本企業は30%に上がりましたが、同時に「ビジネスの存在意義が失われる脅威」と見る割合も24%に上がりました。期待と不安が、同時に膨らんでいるのです。 mynavi
PwCの担当者も危機感を持つこと自体は悪くなく、大事なのはそれを事業や業務、顧客接点の見直しにつなげられるかどうかだと述べています。不安を感じるのは、状況を正しく捉えている証拠でもあります。大切なのは、その不安を「何を変えるか」という具体的な行動に変えることだと思います。 mynavi
AIへの移行とは、結局どういうことなのか
ここで冒頭の問いに戻ります。AIに移行する時期だと言われますが、その「移行」とは、実際に何を指すのでしょうか。
私は、引っ越しに近いと考えています。荷物をそのまま新居に運ぶだけなら、それは「移動」であって「移行」ではありません。新しい家の間取りに合わせて家具の置き方を変え、暮らし方そのものを組み立て直して、はじめて「引っ越した」と言えます。
そして会社に例えると、この「間取り」は会社ごとに違いますよね。製造業と小売業では違いますし、役所でも違います。同じ業種でも、社員の構成や顧客との関係で答えは変わります。だからこそ、「移行とは何か」は他社の事例をなぞるのではなく、自社で言葉にする必要があるのだと思います。
3つの問い
次の3つを自社に問いかけてみてはいかがでしょうか。
- 何をもって「変わった」と言うか、決めていますか。 削減した時間だけでなく、売上、顧客満足、新しい取り組みの数など、複数の物差しを持ちます
- 浮いた時間や余力を、どこに使うか決めていますか。 使い道を決めないと、余力は静かに消えてしまいます
- その成果を、誰にどう返しますか。 社員、お客さま、地域のどこに返すのかを考えます
PwCは、効果を大きく出している企業に共通する要素として、準備を整え、きちんと測り、現場で動かす、という当たり前のことの積み重ねることだと書いてあります(実際は英語なので、ニュアンスが違っていたらすみません)ので、大切なことではないかと思います。
さいごに
PwCは、活用・効果創出・成果還元をひとつの循環として設計することが重要だとし、生成AIによる変革は選択肢ではなく生存条件になりつつあると述べています。少し強い言葉ですが、方向性にはうなずけます。 mynavi
AIは、使うこと自体が目的ではありません。仕事のあり方を見直し、働く人の暮らしを良くし、お客さまや地域にとっての価値を高めるための道具です。使っているかどうかを数える段階から、使って何が変わったのかを語れる段階へ・・。いまはそこに進む時期なのだと思います。
参考
マイナビニュース TECH+「日本企業の87%が生成AI活用 成果の財務還元は6カ国最下位、PwC調査」(2026年6月12日)
PwC Japanグループ「生成AIに関する実態調査2026 春 6カ国比較」(2026年6月10日)
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