自治体DXが国を挙げて推進されるなか、グループウェアやワークフローシステムなどの庁内ツールを導入した自治体の担当者の、なんと約8割が「導入後に以前のやり方に戻った経験がある」と回答していることが、rakumo株式会社の実態調査(2026年5月)で明らかになりました。「完全にツールへ移行できた」と答えたのはわずか16.5%にとどまっています。
なぜ自治体の庁内ツールはこれほどまでに定着しないのでしょうか。本記事では、その構造的な原因を整理してみようと思います。
操作を覚える時間がないという現場の切実な声
同調査でツール導入時の現場反応として最も多かったのは、「忙しくて操作を覚える時間がない」(38.3%)という声でした。続いて「説明会やマニュアルがあっても内容を理解しきれない」(37.4%)、「画面が複雑で操作がわかりにくい」(36.5%)が上位を占めています。
自治体の現場職員は、住民対応・窓口業務・法令に基づく事務処理など、日常業務だけでも多忙です。そこに新しいツールの習得という負荷が加わると、学ぶ余裕がありません(ありそうな気もしますけど、多くの時間が割けないのかもしれません)。研修や説明会を実施しても、実務に追われるなかでは定着まで至らないケースが大半なようです。
自分だけが使っても意味がないという組織の構造問題
アナログに逆戻りした理由として最も多かったのは、「周囲の職員がツールを使っておらず、自分だけでは完結しなかった」(47.8%)という回答です。
デジタルツールは、組織全体で使われてはじめてその効果を発揮します。隣の席の先輩が「やっぱり紙のほうが確実だよ」と言い続けている環境では、残念ですが、意欲ある職員も少しずつアナログに引き戻されていきます。特に承認フローや情報共有のように複数人が関わる業務では、一人だけがツールを使っても業務が完結しないため、結局は従来の方法に逆戻りせざるを得なくなります。
従来の方法のほうが早いという習熟度の格差
逆戻りの理由の第2位は、「ツールの操作に慣れず、従来の方法のほうが早かった」(44.4%)でした。
自治体職員のデジタルリテラシーには、世代や部署によって大きな差があります。ベテラン職員は長年にわたって紙や電話中心の業務に習熟しており、慣れ親しんだ方法のほうが圧倒的にスピードが速い状態です。一方で若手職員は操作には慣れていても、行政業務全体の流れや法令・規程に関する知識が浅く、それぞれに「できること・できないこと」があります。こうしたリテラシーの断層が、組織全体での移行を難しくしています。
業務の実態に合っていないツール選定の問題
「ツールの機能が業務の実態に合っていなかった」という回答も36.7%に達しています。
自治体の業務は、民間企業のそれとは大きく異なります。法令・条例に基づく処理、住民の個人情報を扱うセキュリティ要件、予算・決裁に関わる複雑な承認フローなど、汎用的なSaaSツールではカバーしきれない業務が数多く存在します。ツールを先に決めてから業務に当てはめようとすると、現場で「この機能では足りない」「このフローでは対応できない」という問題が続出し、結果として従来の方法に頼ることになります。
管理職・上司の意識が変わっていない
「上司や管理職が従来のやり方を好んでいたから」という回答も16.7%ありました。
これは、実態としての影響力は数字以上だと思います。上司が「ハンコのある書類を持ってきて」「口頭で一度確認して」と言い続ける限り、現場職員はどれだけツールを使いたくても使えません。DXの本質的な課題は、テクノロジーではなく組織文化に根付いているといっても過言ではないのです。
推進側と現場側の「意識のズレ」ですよね。これを放置したまま高額なシステムを導入しても、予算の浪費と職員の疲弊を招くだけで、変革にはつながりません。
定着支援に時間を取られ、本来業務が圧迫される悪循環
同調査では、庁内ツールの定着支援(説明会・マニュアル作成等)に「非常に多くの時間を割いており、本来の業務を圧迫している」という担当者が14.8%、「ある程度の時間を割いている」が60.0%に達しています。
DX推進担当者がツールの使い方説明に追われていては、本来やるべき業務改革や新しい施策の検討に割く時間がなくなります。定着支援コストが高いままでは、ツール導入の投資対効果も下がり、組織全体のDXモチベーションが失われていきます。
単年度予算とIT人材不足という構造的な制約
自治体特有の問題として、単年度主義の予算制度も大きな壁です。DXは短期で成果が出る取り組みではなく、数年単位での継続的な投資と改善が必要です。しかし単年度予算では、長期的な視点でツールを育てたり、運用体制を整備したりすることが難しくなります。
加えて、ICTの専門知識を持つ職員が限られており、外部ベンダーへの依存が常態化している自治体も少なくありません。ツールを導入しても庁内で運用・改善できる人材がいなければ、トラブル発生時に手が打てず、現場はアナログに逆戻りする選択を取らざるを得なくなります。
ツール定着に向けて本当に必要なこと
これらの課題を踏まえると、庁内ツールを定着させるためには次のような取り組みが重要です。
まず、業務改革とセットで進めることが欠かせません。ツールを業務に合わせて選定・カスタマイズし、業務フローそのものを見直すことが前提です。ツールを先に決めて業務に当てはめる順番では、現場の反発は避けられません。
次に、トップダウンとボトムアップの両輪で推進する体制が必要です。首長や管理職がDXの意義を理解して旗振り役となり、かつ現場の職員が「自分たちのDX」として主体的に関われる仕組みが求められます。
また、一度の研修で終わらせない継続的な支援も重要です。「学び→実践→共有」を繰り返す仕組みを設計し、小さな成功体験を庁内で横展開することが、じわじわとした定着につながります。

まとめ
自治体DXにおける庁内ツールの定着問題は、民間企業にも同様なことが言えるかと思います。なかなかDX実現とならないのは、この必要なことに対して、様々なコストを掛けられないという現実があります。ツールそのものの問題ではなく、組織文化・人材・業務設計・予算制度という複合的な要因が絡み合っているのです。
ツールを入れることがゴールではなく、職員が日常業務のなかで自然に使い続けられる状態をいかに設計するかが大事だと思うのですが、まだまだ時間が掛かることなのかもしれません。












