ChatGPTやGeminiなどといった生成AIの登場により、業務効率化やクリエイティブの可能性が飛躍的に広がりました。Webサイトのコンテンツ制作や社内資料の作成、マーケティング用の画像生成など、皆様の会社でも導入を検討、あるいは既に試験運用を始めているのではないでしょうか。
しかし、便利な一方で、このような不安の声も多く耳にします。
「生成AIで作った画像を、自社のWebサイトや広告に使っても法的に問題ないのだろうか?」 「知らないうちに他社の著作権を侵害してしまい、訴訟問題になったらどうしよう…」 「逆に、自社のデータが勝手にAIの学習に使われてしまうのは防げないのか?」などなど。
新しい技術には、新しいルールが付きものです。とりわけ知的財産権の分野では、現在進行形で議論が行われており、漠然とした不安が企業のAI活用を躊躇させる大きな要因となっています。
今回は、インターネット戦略を支援する立場として、現在公表されている公的機関の見解に基づき、生成AIと知的財産権に関する事実関係を整理してみようと思います。
漠然とした不安の正体は「情報の未整理」
多くの企業が抱える不安の根本原因は、生成AIに関する法的な議論が複雑で、情報が整理できていないことにあります。メディアで報じられる断片的な情報や憶測によって、必要以上にリスクを過大評価したり、逆にリスクを軽視しすぎたりしているのが現状ではないでしょうか。
ビジネスでAIを活用するためには、まず、何が法的に整理されていて、何がまだ議論中なのかという事実を把握する必要があります。そこで、日本国内における著作権法の解釈について、文化庁が公表している見解に基づき、事実のみを書いておきます。
AIと著作権に関する現在の基本的な考え方
日本の著作権法において、AIと著作権の関係は主に「AI開発・学習段階」と「生成・利用段階」の2つに分けて考えられています。
1. AI開発・学習段階(AIを作ること)
日本の著作権法第30条の4では、著作物に表現された思想や感情の享受を目的としない行為(情報解析など)であれば、原則として著作権者の許諾なく著作物を利用(複製や翻案など)できるとされています。これはAIのディープラーニングも対象に含まれます。
ただし、これには例外があります。「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」は、この規定の対象外となります。どのような場合がこれに該当するかについては、具体的な事例の蓄積が待たれる状況です。
2. 生成・利用段階(AIを使うこと)
ユーザーが生成AIを利用して画像や文章などを生成し、それをWebサイトに掲載したりSNSで発信したりする段階です。ここで生成されたものが他人の著作権を侵害するかどうかは、人間が制作した場合と同様に判断されます。
文化庁の見解によれば、著作権侵害が成立するためには、以下の2つの要件が必要です。
- 類似性: 生成物が、既存の他人の著作物と「似ている」こと。
- 依拠性: 生成物が、既存の他人の著作物に「依拠して(もとにして)」作成されたこと。
AIが生成したものであっても、既存の特定のイラストや文章と酷似しており(類似性)、かつ、ユーザーがその既存作品を知っていて、それを意図的に再現しようとした場合や、AIがその作品を学習データとして含んでいた場合など(依拠性)、これらの条件が揃えば著作権侵害となる可能性があります。
とりわけ、「特定のクリエイターの作風を真似る」ように具体的な指示(プロンプトを入力)を出して生成した場合、依拠性が認められやすくなる可能性が指摘されています。AI と著作権に関する考え方について(素案)
弊社からのアドバイス
ここまで述べた法的な事実関係(運用原則に基づく記述)を踏まえ、私からのアドバイスを書いておきます。
企業は「リスクがあるから一切(AIを)使わない」という萎縮した姿勢ではなく、「リスクを正しく管理しながら、競争力を高めるために積極的に活用する」という戦略的なスタンスを取るべきでしょう。
具体的には、以下の3つのアプローチをおすすめします。
1. 社内ガイドラインの策定と周知徹底
漠然とした運用はリスクの温床です。法的な事実に基づき、自社としての明確な利用ルールを定めてリスクヘッジをおこないましょう。
- 禁止事項の明確化: 特定の他者作品に類似させるプロンプトの禁止、既存の商標や著名人の肖像を含む生成の禁止などを明文化します。
- 利用範囲の規定: 生成物を社内資料のみに使うのか、Webサイトや広告といった公の場に出すのかによって、チェック体制を整えておくと良いかと思います。
- 人間による最終確認: AIが出力したものをそのまま使うのではなく、必ず人間が著作権侵害や倫理的な問題がないかを確認する体制づくりも必要になるでしょう。
2. 生成プロセスの記録と透明性の確保
万が一、著作権侵害の疑いをかけられた場合に備え、「どのように生成したか」を証明できるようにしておくことも重要です。
- プロンプトの記録: どのような指示・命令文を入力したかを記録として残します。これにより、「特定の作品に依拠する意図がなかった」ことを主張する材料になります。これは、かなり大事だと思います。
- 利用ツールの明記: どのAIツール、どのモデルを使用したかを記録します。商用利用が許可されているツールを選ぶことは大前提です。
3. 「AI+人間」の共創による独自価値の創出
法的なリスクを低減させる最も効果的な方法は、AIの出力結果に人間が手を加え、オリジナリティを持たせることです。
- AIはあくまで「素材作成」や「アイデア出し」の補助ツールとして位置づけます。
- 生成されたテキストや画像をそのまま使うのではなく、自社の文脈に合わせてリライトしたり、デザイナーが手を加えて加工したりすることで、著作権リスクを下げつつ、自社独自の付加価値を生み出すことができます。これこそが、これからの時代のクリエイティブ戦略だとも言えます。
まとめ
生成AIと知的財産権をめぐるルールは過渡期にあります(しばらくは続くかも)。今後もあたらしい判例や法改正によって状況が変わる可能性もあります。常に最新で信頼できる情報(公的機関の発表など)をキャッチアップし続けることをおすすめします。
アイ・セプトでは、デジタルマーケティングだけでなく、こうした最新技術の実装に関するご相談にも乗ります。「自社でAI活用ガイドラインを作りたいが、何から手をつければよいかわからない」「リスクを抑えながらWebサイトの運用効率を上げたい」とお考えの企業様も、ぜひ一度ご相談ください。













