インターネット広告の世界で、これまで当たり前だった構図が大きく変わり始めています。それは、「広告運用は代理店に任せるもの」から、「広告主が自社で主導するもの」への転換です。
注目されているのが、楽天グループの広告・マーケティング内製化です。背景には、楽天が持つ膨大な顧客データや、楽天市場、楽天カード、楽天モバイルなどを横断したエコシステムの活用があります。
広告内製化は、コスト削減だけの話ではない
広告内製化というと、まず思い浮かぶのは代理店手数料の削減ではないでしょうか。もちろん、広告費に対する運用手数料を抑えられることは大きなメリットですが、今回はそこだけではありません。
本当に大きいのは、広告の判断材料が社内に残ることです。
例えば、「どの商品が反応したのか」「どの訴求がクリックされたのか」「どのターゲットに響かなかったのか」「広告の成果が、売上や問い合わせにどうつながったのか」などです。
これらを外部レポートとして受け取るだけでなく、自社の担当者が日々触れることで、マーケティングの感覚が社内に蓄積されることを重視し始めたということになります。
広告は単なる集客手段ではなく、顧客理解のためのデータ収集の手段ですから、企業は広告運用そのものを、スピーディーに判断しやすい場所へ移そうとしているのです。
AIは、内製化のハードルを下げた
これまで広告運用は、専門知識が必要な領域でした。Google広告やMeta広告、Yahoo!広告、各種DSP、SNS広告など、媒体ごとに管理画面も違えば、入札や配信設定、クリエイティブ検証、レポート作成の考え方も違います。
ですが、AIと自動化機能の進化によって、その前提が変わってきたのです。つまり、以前は代理店の熟練担当者が手作業で調整していた領域の一部を、広告プラットフォーム側のAIが担うようになってきたわけです。
この変化によって、広告主側は、すべてを自社で完璧に運用するというわけではないのですが、「AIを使いながら、自社で判断できる範囲を広げよう」という現実的な内製化に踏み出しやすなったのです。
企業側のニーズは“早く動きたい”
重要なのは、企業は素早い判断をしてアクションしないといけないと考えている点です。例えば、市場の反応が変わったら、すぐに広告文を変えたり、売れ筋商品が変わったら、すぐに予算配分を変えたり、SNSで話題になったら、その日のうちにLPや広告訴求へ反映したり、といった具合です。
こうした動きは、外部との確認や依頼のやり取りが多いほど遅くなってしまいます。企業は広告を発注するものではなく、自社で動かすものとして、さらなる有効活用を目指し始めたのです。
広告代理店は不要になるのか
不要にはならないと思います。ですが、作業代行だけの代理店は選ばれにくくなると考えられます。これまでの広告代理店の主な役割は、広告の設定、入稿、入札調整、レポート作成、改善提案でした。もちろん今後も必要な業務ではありますが、AIと広告プラットフォームの自動化によって、単純な運用作業の価値は相対的に下がっていきます。
一方で、企業が内製化を進めても、すべてを自社だけで完結できるわけではありません。ですから、自社のマーケティング力を高めてくれる広告代理店としてであれば、今後も必要とするのではないかと思います。
代理店ビジネスは「運用代行」から「伴走支援」へ
今後の広告代理店は、広告主の外側で作業を請け負う存在から、広告主の内側に入り、仕組みづくりを支援する存在へ変わっていくのではないかと思われます。例えば、広告運用の内製化ロードマップ作成や社内担当者向けの広告運用研修、月次の改善会議への参加、KPI設計とダッシュボード整備、AI広告運用のチェック体制づくり、経営層向けのマーケティングレポート作成など。
つまり、広告代理店の価値は、広告主が成果を出し続ける体制をつくれることへ移っていくのではないかと思います。
まとめ
楽天の広告内製化が示しているのは、広告代理店不要論ではなく、広告代理店の役割が、作業代行から経営に近いマーケティング支援へ変わるということです。広告主は、広告を外部に丸投げする時代から、自社で理解し、判断し、改善する時代へ移っていきます。これは大企業だけの話ではなく、中小企業も同様に動いていくと思われます。
ですが、AIや自動化が進んでも、戦略、顧客理解、ブランド設計、データ活用、人材育成、リスク管理の重要性はなくなりません。むしろ、そこにこそ専門家の価値が集中していくので、ここが広告代理店の腕の見せどころになるのではないかと思います。
楽天の内製化は、その変化をわかりやすく示した出来事だと思いますので、AIの活用が進展すればするほど、今後はこのような動きは浸透していくでしょう。













