Webサイトをめぐる競争は、情報量の争いで、より多くのコンテンツを、より早く、より安く届けられるかどうかが差別化の軸でした。ですが、その時代は終わりを迎えています。情報はすでに飽和していますから、訪問者はわずか数秒でWebサイトを去るかどうかの判断を下します。今後のWebサイトにおいて本当の競争力を生むのは、訪問者の心理をどれだけ精緻に読み取り、その導線をいかに設計できるかという、きわめて人間的な問いへの答え方になります。
人間の認知はそもそも怠慢にできている

まず前提として理解しておきたいのは、人間の意思決定がいかに非合理であるかという事実です。行動経済学者のダニエル・カーネマンは著書『ファスト&スロー』(2011年)の中で、人間の思考を「システム1(速い・直感的)」と「システム2(遅い・熟慮的)」の二種類に分けて説明しています。
そこでWebサイトを訪れるユーザーのほとんどは、システム1で動いているのです。つまり、じっくり読んで合理的に判断するのではなく、瞬間的な印象と感情によって行動を決めているということになります。みなさんもそんな感じではないでしょうか?
この事実は、Webデザインに対する根本的な問いになってしまっていて、Webサイトの運営者が「ちゃんと読めばわかるはず」と思って並べた情報が、実はほとんど読まれていないとしたら?・・悲しいですよね(苦笑)
ヤコブ・ニールセンが2008年に発表したアイトラッキング研究では、PCでWebサイトをみたユーザーの読み方が「F字型」のパターンを描くことが明らかになっていることは有名な話です。これは、最初の数行を横に読み、その後は左端を縦にスキャンするだけで、コンテンツの大半は視野に入らないまま判断が下されているということになります。Webサイトの設計者は、この「読まれない現実」を出発点にしなければならないのです。
心理的負荷(認知的摩擦)を下げることが大切

Webサイトの訪問者心理を読む上で最初に取り組むべき課題は、認知的な摩擦を取り除くことにあります。これは、訪問者が何かを理解しようとするときに感じる精神的な抵抗感を指します。たとえばメニューが多すぎるとか、文章が長すぎるとか、もしくは選択肢が複雑すぎるとか・・そういった要素が積み重なるほど、ユーザーは離脱へと向かってしまうのです。
選択肢が多ければ多いほど意思決定が困難になり、最終的には何も選ばないという結果を招くことになってしまいます。たとえばECサイトで商品を1,000件を一覧表示するだけでは、購買率が上がらないことくらいわかりますよね。サブスクを提供するWebサイトでも、プライシングページに料金プランを6種類並べると、おそらくユーザーは悩み、「面倒だな・・」と思って申し込まずにページを閉じる可能性は高いです。「選ばせる設計」ではなく「選ばなくていい設計」こそが、導線設計の核心にあると私は思います。
行動を生む三つの条件
では、訪問者に行動を起こさせるためには何が必要か。「フォッグ行動モデル」というのがあるのですが、これは人間が行動を起こすためには「動機」「能力」「促し」の三つが同時に揃う必要があると言われています。
たとえば、ニュースレターの登録フォームを例にすると、訪問者が「面白そうな情報が届くかもしれない」という動機を持っていたとしても、フォームの記入項目が10個あれば、多くの人は諦めてしまいます。逆に、メールアドレスだけでよい一行フォームがあり、読了後のタイミングで「ぜひご登録ください」という文言が現れれば、登録率は劇的に上がるのです。Webの導線設計とは、この三要素を訪問者の心理タイミングに合わせて最適に配置することに他なりません。
信頼は設計できる

行動を促す上で、信頼の醸成もまた避けては通れないテーマです。人間が影響を受けやすい六つの原理は、返報性、コミットメントと一貫性、社会的証明、好意、権威、希少性と言われています。これらはWebサイト設計においても今なお有効な指針であり続けています。
たとえば「○○社をはじめ、3,000社以上が導入」という一文が与える影響は絶大かと思います。また、メディア掲載実績や専門家の推薦文も同様です。訪問者は意識的に評価しているのではなく、こうしたシグナルを直感的に信頼の根拠として認識しているのです。信頼って主観的なものかと思うのですが、設計によって客観的に高めることができるのです。
こうしてWebサイトを回遊して、大袈裟な言い方ですが、「旅」をしながら目的に向かっていると言えるのではないでしょうか
AIとパーソナライゼーションが導線設計を再定義する
ここまで述べてきたことは、一般的なユーザー像を想定した設計です。ですが今、AIの進化がその前提を根底から変えようとしています。機械学習による行動予測と動的コンテンツ配信は、一人ひとりの文脈に合わせた導線をリアルタイムで生成するようになる可能性を秘めています。
実際、Amazonは商品の並び順を個人の購買履歴に合わせて最適化していますよね。こうしたパーソナライゼーションは、Eコマースや動画配信の専売特許ではなく、今後はあらゆるWebサイトに普及していくと思います。そこで大切なのは、テクノロジーの導入自体ではなく設計思想です。AIは導線を自動化できますが、どんな導線を創るべきかという考えは、今後も人間が考えなければならないと思います。
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