「女王決定戦」に影を落とした“クマ問題”

※写真はイメージです

今回は、私の好きなマラソン関係の話です。女子実業団駅伝日本一を決めるクイーンズ駅伝が昨日開催されました。この駅伝は、宮城県・松島町から仙台市まで42.195kmを駆け抜ける、女子駅伝の最高峰レースです。しかし今年は、レースそのものとは別の緊張感が会場を包んでいました。東北地方を中心に相次ぐクマによる人身被害などを受け、大会主催の日本実業団陸上競技連合が、クマが出没した際の開催中断ルールを事前に公表するという、いままでに前例のない対応を行ったのです。

どこまで来たら「中止」? クマ出没時の具体的ルール

今回発表されたクマが出没した際の開催中断ルールは、かなり具体的なものでした。

距離による基準

  • コースから半径100m以内にクマが出没
    • 原則としてレース「中止」
  • コースから半径500m以内にクマが出没
    • その影響で交通規制や避難誘導に支障が出ると判断された場合、中止の可能性あり

タイミングによる判断

  • スタート前に出没
    • 安全が確保できると判断されれば、予定通り開催
  • スタート直前〜スタート後に出没し、まだその区間に選手が到達していない場合
    • 影響のない区間まではレース継続
    • そこから先の区間は中止し、選手は最寄りの安全な施設・場所へ退避

つまり、少し様子を見て続行を判断するのではなく、観客や選手、運営スタッフの安全を最優先し、リスクがあれば即ストップという判断フローが明確に決められていました。

なぜ、そこまで徹底した“クマ対策”が必要なのか

背景には、ここ2,3年にかけて、東北地方を中心としたクマの出没や被害の急増があります。クイーンズ駅伝のコースは、日本三景・松島や仙台市内の広瀬川沿いを通る、自然豊かなルートです。とくに以下のエリアは、事前に出没の可能性が高い地点として警戒が強められていました。

  • 仙台市内の広瀬川沿い
  • 第1区の松島町エリア
  • 利府町内の一部区間

大会本部には、レース中も含めてクマ情報を集約する専用窓口が設置され、沿道自治体や警察との連携体制が敷かれました。また、目撃エリア付近で立ち止まっての応援は控えてほしいと、観客にも協力が呼びかけられています。月陸Online|月刊陸上競技

青葉城跡から仙台市内の眺め

「走る側」から見た開催中断ルールの重み

ランナー目線で考えると、このルールは精神面に大きな影響を与えます。一度きりのピーキングを合わせてきた「日本一決定戦」が、途中で打ち切りになるかもしれないという不安。しかも理由は「自分たちの走り」ではなく野生動物の出没であること。それでも、選手もスタッフも「安全第一」に納得せざるを得ない状況。

クイーンズ駅伝は、チームの1年の集大成とも言える大舞台です。そのレースが「クマ」という、人間の努力ではコントロールできない要因によって左右される――。それは、スポーツイベントの運営が気候変動や野生動物問題と無関係ではいられない時代に入ったことを象徴しているようにも感じられます。

「止める決断」を事前に示したことの意味

今回、主催者が評価されるべきポイントは、「クマが出たらどうするか」を事前にルールとして明文化し、公表したことだと思います。月陸Online|月刊陸上競技+1

  • 現場の判断だけに委ねず、事前に「中止ライン」を共有
  • 選手・監督・観客・地元住民が、同じ前提でレース当日を迎えられる
  • 万が一中止になっても、「なぜそうなったのか」が説明しやすい

これは、スポーツイベントのリスクマネジメントの見える化と言えます。「何かあったらその場で判断します」ではなく、リスクシナリオごとの対応を、事前にロジックとして公開する。自治体yあ警察、メディア、スポンサーなどを巻き込みながら実施する駅伝だからこそ、こうした透明性は重要です。

今年は中断なしで全チーム完走。それでも問われた「これから」

幸いなことに、今年のクイーンズ駅伝ではコース近くでクマの出没は確認されず、24チームすべてが無事にフィニッシュテープを切りました。スポニチ Sponichi Annex+1ただし、それでこの問題が終わったわけではありません。なぜなら、

  • クマの出没は「今年だけの異例」ではなく、今後も続く可能性が高い
  • 山と街が近い地域でのイベントでは、同様のリスクが他競技にも波及しうる
  • 「中断ルール」だけでなく、コース設定や開催時期、防護体制など、より上流の設計にも議論が必要になる

クイーンズ駅伝のケースは、自然と共存する地域で大型イベントを開くとはどういうことかを、日本全体に問いかける事例になったのではないでしょうか。

※写真はイメージです

スポーツと野生が交差する時代の、ひとつのモデルケース

今回のクマ出没時の開催中断ルールは、

  1. 野生動物によるリスクを、見て見ぬふりをせずに正面から扱ったこと
  2. 中止条件を距離・時間・区間ごとに細かく定義したこと
  3. その内容を事前に公表し、ステークホルダー間で前提を共有したこと

という点で、今後のスポーツイベントや地域イベントにとって、ひとつのモデルケースになっていくはずです。選手にとっては、どんな状況でもベストを尽くすこと。運営にとっては、どんな状況でも安全を守ること。その両方を両立させるための「止める勇気」が、今年の全日本実業団女子駅伝の裏テーマだったのかもしれません。

先日、北海道道北にある弊社のオフィスから300mくらいのところにヒグマが出没しました。そのヒグマの動画を見せてもらいましたが、動画で見るだけでも普通に怖いです。これからたくさんの雪が積もると、動物の足跡が目立つようになるのですが、どうか大きな足跡が見つかりませんようにと、祈るばかりです・・。

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アイ・セプトの社長
株式会社プロトクリエイティブ(現 株式会社プロトコーポレーション)で、 各種メディアをアートディレクターとしてプロデュース。のちに、お客様の一番近くで仕事をしたいと考え、転職して営業職にジョブチェンジ。
株式会社ウェブ・ワークス(現 トランスコスモス株式会社)では、新事業の草分けとしてプロジェクトマネージャーとなり、のちに東海圏と関西圏のエリアマネージャー、福岡・札幌圏のアドバイザーを担う。そのほか、人事制度の策定や事業再生にも従事。

2009年7月7日『株式会社アイ・セプト』を設立、代表取締役社長に就任。2019年には北海道上川郡下川町にオフィス、2024年には秋田県秋田市に秋田オフィスを開設し、地域課題の解決に向けて精力的に活動中。
GUGA認定 生成AIパスポート 有資格者。
趣味はマラソン、釣り、ライブ観戦など。