「もうすぐ冬だし、そのうちクマも山に帰るだろう」
そう思いたいところですが、近年は秋〜初冬にかけての出没・人身被害が過去最多となる地域が多いようです。平野部での目撃と被害も目立ったかと思います。
背景
1. ドングリなど木の実の不作
クマにとって、秋は冬眠に向けて脂肪をためるラストスパートの季節です。ブナやナラなどの堅果類(ドングリ類)が不作の年には、山の中だけでは必要なエネルギーを確保できず、人里近くの柿の木や畑、家庭ゴミに頼ろうと、集落まで降りてきやすくなります。鳥獣被害対策ドットコム+1
2. 森と人里の境目が薄くなっている

里山の管理放棄、放置された果樹や耕作放棄地、河川沿いの藪などが、クマにとって安全に移動できる緑の回廊になってしまうケースがあります。ジャパンベア org
- 使われなくなった山際の畑
- 収穫されない柿の木
- 背の高いヨシ・竹やぶ
こうした場所をつないで、クマが平野部を10km以上移動した事例も報告されています。ジャパンベア org また、クマの緩衝地帯がない、つまりクマの生息地(奥山)と人間の生活圏(市街地・農地)の間に里山がない地域は、クマと人の生息地の境目がないと言えます。さらに最近では里山までクマが入ってきている事例も増えていますので、緩衝地帯があれば大丈夫とも言えなくなりました。
3. 冬眠しないクマが出てくる可能性
最近は、暖冬傾向や都市近郊での餌の豊富さから、冬になっても完全には冬眠せず、活動を続けるクマの存在も専門家などから指摘されています。
- 気温がそれほど下がらない
- 人の出す生ゴミや果樹園の残り実が豊富にある
こうした条件が揃うと、冬眠する必要が薄れてしまい、通年で活動するクマが増えるのではないかと懸念されています。
クマに遭遇した先
ニュースで報じられるのは、間違いなく氷山の一角です。実際には、ケガまでは至らない接近や住宅地の庭先への侵入、夜中の時間帯に住宅地に接近するなど、明るみに出てこない事例はたくさんあります。

1. 直接的な人身被害
近年の統計では、秋から初冬にかけての農作業中・通勤通学中・散歩中の被害が増えています。
平野部や住宅地の敷地内で人身事故の事例もあり、山奥に入らなければ安全とは言い切れなくなりました。ジャパンベア org+1
2. 心理的なストレス・生活の変化
- 子どもを一人で通学させられない
- 部活動の朝練・夕練の時間をずらさざるを得ない
- 高齢者が畑仕事を控えるようになり、暮らしのリズムが崩れる
こうした目に見えにくい生活の質の低下も、被害の類だと思います。ちなみに私の場合、下川町のオフィスにいる間は、朝の7時前と夕方の5時以降のランニングを控えています。これは町民からのアドバイスでしたので、かれこれ6年ほど守っています。これもまた、通常の生活リズムが変わってしまうことのストレスにもなりかねないと思います。
3. 地域経済・観光への影響
登山道やキャンプ場の閉鎖、観光客減少、農作物の被害など、クマによる被害は、地域の一次産業や観光業にもじわじわとダメージを与えています。マテリアルヒューマン+1
私たちができること
クマは本来、森の生態系を支える存在です。一方で、生活圏が重なりつつある今、人命の安全を最優先にしながら、頭数を適正に、そしてどのように距離を取っていくかが問われています。
1. クマを寄せない生活環境をつくる
家や集落に餌となるものを残さないことが大切です。
- 家の周りの柿などは放置せず、できるだけ収穫・伐採を検討する
- 生ゴミはフタ付き容器や屋内に保管する
- ペットフードやバーベキューの残飯などを戸外に置きっぱなしにしない
クマは一度「ここは餌がある場所」と学ぶと、繰り返し通う習性があります。そのような体験の記憶をつくらせないことが、長期的な被害予防につながります。鳥獣被害対策ドットコム+1
2. 出没情報の見える化と、住民同士の共有
- 自治体からの出没情報をこまめにチェック
- 目撃したら、110番や自治体の担当窓口にすぐ連絡
- 自治体の公式LINEやWEBサイトなどで、正確な情報を共有
SNSで噂レベルの情報が一人歩きすると、無用なパニックやデマを生みます。最近は、自治体がAI画像を誤って使ってしまった事例もあり、「情報の出し手」側にも慎重さが求められています。ガーディアン+1
3. 野山に入るときの基本行動
- 朝夕・薄暗い時間帯の一人歩きは避ける
- ラジオや鈴、会話などで人の存在を知らせる。爆竹を使うケースもあります。
- 藪や見通しの悪い場所をできるだけ避ける
- クマスプレーを携行する
- クマのフンや足跡を見つけたら、その先には進まない
「静かに歩くほど山を知っている」タイプの人ほど、クマにとっては気づきにくい人間となってしまうこともあります。ここはあえて、にぎやかに歩くことが安全につながるのではないかと思います。
「駆除か保護か」ではなく「どう共存するか」の時代へ
メディアの報道では、「危険なクマはすぐに捕獲・駆除を」という声と、「安易な駆除は許されない」という声が、しばしば正面からぶつかります。専門家は、ツキノワグマの推定個体数は増えている一方で、地域によっては過去に狩猟圧が高すぎて、絶滅・絶滅寸前に追い込まれた歴史もあると指摘しています。マテリアルヒューマン+1
つまり、必要なのは「駆除か保護か」という二択ではなく、どの地域で、どの程度の頭数を保つのが妥当なのか、そのためにはどんな調査が必要か、どこまでが人間が整備すべきなのかといった視点も必要なのかもしれません。
山の問題ではなく町の問題なのかも
冬が近づいてもクマの出没が続く今、私たちは、クマを遠い山奥の生き物としてではなく、自分たちの暮らしと地続きにいるのだと、すでにとらえていると思います。ですから、クマの生態を知ることや、自分たちの生活環境を見直すこと、正しい情報を収集すること。こうした一つ一つの積み重ねが、人もクマも無用に傷つかない地域をつくっていくのではないかと思います。
野生動物からの被害を未然に防ぐため、目撃・痕跡情報をわかりやすく掲載し、住民・観光客などに向けて注意喚起する『アニマルアラート』の導入を、自治体様向けに募集しています。
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