クマ被害対策施策パッケージ

山や里などで出没するクマのニュースを見ない日は、ほとんどなくなってきました。
こうした事態を受けて政府は11月14日、「クマ被害対策施策パッケージ」を改定しました。これは、国民の安全・安心の確保、そして人とクマ類のすみ分けを図ることで、クマ類による被害を抑制することついてまとめられたものです。

ここでは、専門用語をできるだけかみくだいて、「結局、私たちの生活にどう関係するの?」という視点で整理してみます。

なぜ今、「クマ対策パッケージ」なのか

まず背景です。

  • 2025年度、クマに襲われて亡くなった人は、すでに13人と統計開始以来最多。2023年度の2倍以上になっています。株探
  • 今年4〜9月のクマの出没件数は約2万件で、昨年度1年間の件数をすでに上回りました。株探

エサとなる木の実が山で不足すると、クマは柿の木や畑、ゴミなどを求めて人里に近づきやすくなります。人口減少で人の少ない集落が増え、草刈りや柿の木の手入れが行き届かなくなっていることも、クマが里に下りやすい環境につながっています。

こうした状況を受け、政府は2024年4月に「クマ被害対策施策パッケージ」を作成し、その後も見直しを続けてきました。クマを指定管理鳥獣として位置づけ、国・自治体が連携して管理する枠組みを整えています。環境省+1 今回の改定は、その強化版というイメージですね。

ざっくり何をするの?

政府の資料を見ると、細かい項目がずらっと並んでいて、正直かなり難しい内容です。環境省+1 住民目線で整理すると、主に次の5つの柱があると思います。

1 そもそもクマを生活圏に近づけない対策

  • 放置された柿の木など、「クマを引き寄せるエサ」の片づけを進める支援
  • 住宅地や集落の周りに、草やヤブが生い茂らない「緩衝帯(見通しの良い帯状エリア)」を整備
  • 電気柵の設置や、農地周辺の防護柵の強化
  • クマが川沿いを通って里に下りにくくなるよう、河川の環境管理を進める

こうした対策を、環境省や農林水産省、林野庁、国土交通省が連携して自治体を支援します。環境省+1

2 クマが出たときに、すばやく・安全に対応する仕組み

  • 自治体ごとの「出没対応マニュアルづくり」や訓練の支援
  • クマの出没情報を、ICTを使って集めて共有する仕組みづくり
  • 住宅地や建物の中にクマが入りこんだときの、銃の使用ルール(鳥獣保護管理法のあり方)について検討
  • 警察や自治体が連携して、出没時の交通整理や住民避難など、安全確保を強化

これらは、実際にクマが出たときに「誰が何をするか」を明確にして、混乱を防ぐためのものです。環境省+1

3 クマの数や生息範囲をきちんと把握し、必要に応じて捕獲する

  • クマの個体数や生息分布、被害状況などの調査・モニタリングを国が支援
  • 人の生活圏の近くで、必要な範囲でクマを捕獲・駆除する取り組みを支援
  • 農地周辺でのクマ捕獲を進める

ポイントは、クマを全部いなくするのではなく、地域ごとのクマの個体群を保ちながら、人との距離をとる」という考え方です。環境省+1

4 専門人材「ガバメントハンター」などを増やす

今回の改定で、特に大きく報じられているのがこれです。

  • 狩猟免許を持つ人を自治体が公務員として雇い、「ガバメントハンター」としてクマ対策にあたってもらう仕組みを整備
  • クマ対応の専門家や、捕獲・麻酔・安全管理の技能を持つ人材の育成・確保を、国が支援

現場で動ける人がいないと、どんな計画も進まない結果になってしまいます。ガバメントハンターを公務員として雇用することで、権限を与え、責任をもって業務にあたるという狙いがあるのだと思います。

5 ドローンやICTなど、新しい技術もフル活用

  • ドローンで山の中や広いエリアを見回り、クマの位置を確認
  • 出没情報をアプリや地図上で共有し、警戒が必要な場所を見える化
  • こうした取り組みを行う自治体に、交付金などで支援

すでに政府の資料でも、「ドローンやICT技術を活用した鳥獣対策」が打ち出されています。内閣府+1

私たちの暮らしはどう変わる?

住民の立場から見ると、今後こんな変化が考えられます(私の期待含みです)。

  • 集落の周りの草刈りや、放置柿の伐採などの取り組みが、自治体主導で進みやすくなる
  • クマの出没情報が、自治体の防災メール、アプリ、IPデバイス、ケーブルTV、広報車などで、より素早く共有されるようになる
  • 学校や保育所、通勤・通学路での見回りが増える可能性
  • 「クマが出たとき、誰に連絡すればいいのか?」「どこまでが危険区域なのか?」が、これまでより明確になる

一方で、クマの個体数管理の強化が期待できるため、山での猟銃の発砲音や、捕獲作業を目にする機会も増えるかもしれません。その意味では、「クマから自分の命を守ること」と「自然の中で生きる野生動物をどう扱うか」という難しいテーマに、社会全体で向き合っていく必要があります。

住民一人ひとりができること

国のパッケージができても、最後にクマと向き合うのは私たち一人ひとりです。環境省などが示しているポイントを踏まえると、次のような対策が大切になります。環境省

  1. エサになるものを外に放置しない
    • 生ゴミ、ペットフード、バーベキューの残りなどは外に置きっぱなしにしない
    • 放置柿や果樹があれば、できる範囲で収穫・伐採を検討する
  2. クマが活発な時間帯(早朝・夕方)の単独行動を避ける
    • 山菜採りや釣り、散歩、ランニングでも、可能なら複数人で行く
    • クマ鈴やラジオ、ホーンなどで「人がいる」ことを知らせる
  3. クマの最新情報をチェックする
    • 自治体のホームページや防災メール、掲示板などで出没情報を確認
    • 「この辺は最近出ていないから大丈夫」などと油断しない
  4. クマを見つけても、近づかない・写真を撮ろうとしない
    • 子グマの近くには必ず親グマがいます。かわいく見えても、絶対に近づかない
    • クマに限らずイノシシ、サルなども同様です。
  5. クマを見たら、自治体や警察に連絡する
    • 「こんなことで電話していいのかな?」と遠慮せず、位置・時間・頭数などを落ち着いて伝える
幌加内町では、このようなパンフレットを配布して周知を行っています

「怖い存在」だけで終わらせないために

クマは、もともと日本の森の頂点に立つ生きものです。クマがいること自体は、森の豊かさの証でもあります。一方で、人の命が失われている現実もあり、「怖いから全部いなくしてしまえ」という声が出てくるのも無理はありません。今回のクマ対策パッケージは、その間でなんとかバランスを探ろうとする試みだと言えます。環境省+1

大事なのは、「クマが悪い」「山に入る人が悪い」と誰かを責めるよりも、

  • どこまでが人の生活圏で
  • どこからがクマの生活圏なのか

その線引きを地域ごとに考え、具体的な対策に落とし込んでいくことだと思います。

国のパッケージは、そのための道具箱のようなもの。この道具箱をどう使うかは、自治体と地域住民、そして山や森と関わる人たちの話し合いにかかっています。「クマがいるから、もう山には行かない」ではなく、「クマと人、両方が生きていける地域にするには、何ができるだろう?」そんな視点で、このクマ対策パッケージを眺めてみたいところです。

野生動物からの被害を未然に防ぐため、目撃・痕跡情報をわかりやすく掲載し、住民・観光客などに向けて注意喚起する『アニマルアラート』の導入を、自治体様向けに募集しています。
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アイ・セプトの社長
株式会社プロトクリエイティブ(現 株式会社プロトコーポレーション)で、雑誌やWebサイト、広告などをアートディレクターとしてプロデュース。のちに、お客様の一番近くで仕事をしたいと考え、営業職にジョブチェンジ。
転職先の株式会社ウェブ・ワークス(現 トランス・コスモス株式会社)では、新事業の草分けとしてプロジェクトマネージャーとなり、のちに東海圏と関西圏にある複数拠点をマネジメントするエリアマネージャーと、福岡・札幌圏のアドバイザーを担う。そのほか、人事制度の策定や事業再生にも従事。

2009年7月7日『株式会社アイ・セプト』を設立、代表取締役社長に就任。2019年には北海道上川郡下川町にオフィス、2024年には秋田県秋田市に秋田オフィスを開設し、地域課題の解決に向けて精力的に活動中。