クマ出没で相次ぐイベント中止のいま

この秋、各地で「クマ出没のため中止」のお知らせが目立ちます。白川郷のライトアップ、地方マラソン、夏祭り、そしてなんと教育機関まで。私もマラソンをしているので、自分が参加するマラソンが中止になったら寂しいんですよね。今回は、相次ぐ中止の背景や今後について書いてみようと思います。

最近起きたこと

  • 観光行事:岐阜・白川郷の秋のライトアップがクマ出没の多発を受けて中止(開催予定:10/25-26、11/1-2)。世界遺産の集落を抱える屋外施設が安全確保を最優先しました。
  • スポーツ大会:北海道の浦河ピスカリマラソンが開催中止、福島の喜多方マラソンは10kmレースを中止し代替。コース周辺の警戒体制や見回りを強化しても、目撃が続く時は運営困難と判断されます。
  • 地域の祭り:函館近郊の大沼湖水まつりも中止。夏場でも人気行事が安全最優先で止まりました。
  • 教育機関:北日本の大学では学内での目撃を受け講義中止のケースも。行事に限らず、日常の動線まで影響が広がっています。
  • 背景:環境省の速報では出没件数が過去最多ペース、死亡者数も過去最多との報道が続き、自治体は注意喚起を強めています。

参照:NTV(白川郷)2025/10/27、浦河町 2025/10/07、喜多方マラソン 2025/10/29、はこぶら(大沼)2025/07、FNN 2025/11/04、TBS 2025/10/30、環境省 2025/10/17(各リンクは冒頭「ニュース収集」を参照)。

この動きがもたらす厳しい現状

1)主催者のジレンマ
事故が起きてからでは遅い。一方で中止は地域経済・観光・参加者のモチベーションに痛手です。そこで現場では次の情報を総合して判断しているそうです。

  • 直近の目撃頻度と時間帯(例:クマは夕〜明け方に活動が活発)
  • コース・会場周辺の地形(例:藪や沢、緊急避難できる広場の有無)
  • 警戒リソースの確認(例:警察・猟友会・警備員・ボランティアの人数)
  • 代替導線(例:短縮・時間帯変更・屋内化・オンライン化)

2)参加者・住民の行動変容

  • ランナーや観客は「直前中止」を前提に、返金規定や旅程の柔軟性を重視するようになりました。
  • 子どもの登下校や犬の散歩も薄暮の時間帯を避けるなど、生活動線のやりくりが増えてきています。バス路線の変更を検討する自治体もあるようです。

3)テクノロジー活用の広がり

  • AIカメラ+モーションセンサー:自治体が24時間の定点観測を実施し、誤検知を減らしつつ早期発見(例:山形県内ではモーションセンサーカメラとAI判定の運用が公表)。
  • 即時アラート:LINEや防災アプリで出没・通行止めの即時配信。地図上で立入禁止エリアを可視化。弊社のアニマルアラートも活用されています。
  • ドローン(無人の小型ヘリ)巡回:藪や河川敷の死角の確認と、拡声器による注意喚起。
  • 意思決定ダッシュボード:目撃ログ、見回り位置、避難所の開閉などを一画面で共有し、中止/強行の判断条件を定量化。

注:機材やAIの精度には限界があるため、「最後は人の目と避難計画」が前提。テクノロジーは判断の速さと透明性を支える役割なので、テクノロジーは補助的なものだと考えましょう。

運営の意思決定はどうしていくべきか

IT業界の立場から見ると、運営の意思決定を仕組み化することがポイントだと思います。

  1. 「3段階にレベル分けして開催基準」を明文化
    • レベル1(注意):過去7日以内に半径5kmで目撃1件。コース短縮/見回り増で開催。
    • レベル2(警戒):過去72時間に2件以上。時間帯変更(昼)+ドローン確認。
    • レベル3(中止):当日未明〜当日朝の目撃/痕跡確認。即時中止、代替日・オンライン表彰に切替。
  2. 「5つの連絡線」を整備(平時からテンプレを用意)
    • 参加者一斉通知(SMS/アプリ/メール)
    • 協力機関(警察・猟友会・消防)
    • 交通(バス・鉄道・タクシー事業者)
    • 宿泊・観光(キャンセル料の特例運用)
    • メディア・SNS(理由と基準を同時掲出して誤解を防ぐ)
  3. 「見える化」と「訓練」
    • 会場図に退避ルートと集合場所を常時掲示。ハザードマップ(?)的なもの。
    • 夜明け前の想定訓練を1回でもやると、当日の動きが段違いに滑らかになります。このあたりは消防訓練に近いですね。最近は熊撃退スプレーの練習機会が設けられたりすることもありますね。

クマ出没でのイベント中止は、異常ではなく前提となりつつあります。イベントなどの中止は誰も望んでいませんが、「中止の基準が見える運営」は、参加者に信頼を生むのではないかと思いますので、大事なことではないかと考えますが、どうでしょうか。

野生動物からの被害を未然に防ぐため、目撃・痕跡情報をわかりやすく掲載し、住民・観光客などに向けて注意喚起する『アニマルアラート』の導入を、自治体様向けに募集しています。
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アイ・セプトの社長
株式会社プロトクリエイティブ(現 株式会社プロトコーポレーション)で、雑誌やWebサイト、広告などをアートディレクターとしてプロデュース。のちに、お客様の一番近くで仕事をしたいと考え、営業職にジョブチェンジ。
転職先の株式会社ウェブ・ワークス(現 トランス・コスモス株式会社)では、新事業の草分けとしてプロジェクトマネージャーとなり、のちに東海圏と関西圏にある複数拠点をマネジメントするエリアマネージャーと、福岡・札幌圏のアドバイザーを担う。そのほか、人事制度の策定や事業再生にも従事。

2009年7月7日『株式会社アイ・セプト』を設立、代表取締役社長に就任。2019年には北海道上川郡下川町にオフィス、2024年には秋田県秋田市に秋田オフィスを開設し、地域課題の解決に向けて精力的に活動中。