海外では、AIコーディングエージェントを使って自社で機能を開発できたために、予定していたソフトウェアの購入を取りやめた企業が増えているようです。「それは(開発)体力のある企業の話でしょう」と思われるかもしれません。ですが、規模の大小を問わず似たような動きが静かに広がり始めています。
中小企業のAI導入は、検討段階を超えつつある
独立行政法人中小企業基盤整備機構が2026年3月に公表した実態調査によると、AIの導入率(全社的導入+一部業務での導入)は20.4%、導入を検討中の企業と合わせると39.0%にのぼるそうです。約4割の中小企業が、すでにAIを使う前提で動いているということになります。
業務分野別に見ると、AI導入が最も進んでいるのは総務・管理部門、次いで営業・販売・サービス部門が続きます。バックオフィス業務から少しずつ現場に染み出していく、という流れで理解は正しいのではないかと思います
なぜそうなっているのか
理由の一つは、専任の情シス担当者がいない企業が多いことだと思います。中小企業の多くは情報システム専任者を置かず、総務担当者がIT業務を兼務しているケースが珍しくありません。外部のベンダーに要件を伝えて見積もりを取り、稟議を回して契約するという、いわゆるSaaSを買うというプロセスそのものが重く感じられる企業が増えているという状況において、AIエージェントに直接ツールを作らせる方が、心理的にも時間的にもハードルが低いという状況が生まれつつあるからだと思います。
もう一つは、円安によるコスト増です。海外SaaSの多くはドル建て課金のため、円安局面が続くほどライセンス費用は実質的に上がり続けます。予算の限られる地方の中小企業や小規模事業者にとって、毎月のドル建て支払いを続けるより、AIエージェントで必要最小限の機能だけを社内で作った方が、中長期的なコスト面で現実的だと判断されるケースが増えています(とはいえ、生成AIは今のところドル建て課金サービスばかりですが・・・)。
また、どのSaaSを選べばいいか分からないという悩みも、実は内製への追い風になっているはずです。比較検討の材料が十分にない状態で無理に選定をするより、いっそ自分たちの業務に合わせて小さく作ってしまおう、という発想に至るのは自然な流れとも言えるでしょう。
ただ、品質とセキュリティは、まだ追いついていない
一方で、内製化には日本特有の弱点もあります。AIが生成したコードを本番環境に投入する前に正式なテストを経ているものはわずかで、「早く作れる」ことと「安全に運用できる」ことは別問題であり、専任のIT人材が少ない中小企業ほど、この品質担保の部分が手薄になりやすい構造があります。
内製化は、AIに丸投げすれば済むものではなく、テストやセキュリティに関するレビューの体制とセットで初めて機能するものです。この点は、規模の大きい企業でも変わりません。
SaaSが消えるわけではない
ここまで内製化の追い風を紹介してきましたが、SaaSが不要になるという単純な話でもないのです。AIエージェントは業務ソフトを完全に置き換えるというより、既存のソフトと併用される形(アドインなど)で導入されることが多く、代替されているのはソフトウェアそのものというよりも、人の作業なのかもしれません。SaaSとAIエージェントが役割分担しながら共存していく、というのが今の国内の実態なのかと個人的には思います。
IT・Web業界にとっての意味
こうした動きは、弊社のようなIT・Web関連の支援会社にとって、とても重要です。
- 情シス専任者がいない企業への伴走支援 総務担当者がIT業務を兼務する企業にとって、AIエージェントの使い方から社内ルール整備まで、外部から伴走してくれる存在の価値は高まっています。
- 「作って終わり」にしないための品質担保支援 テスト体制やセキュリティのレビューが手薄になりがちな中小企業にとって、内製ツールの品質を担保する仕組みづくりは大きなニーズです。
- 導入事例や比較検討情報の発信 何を選べばいいか分からないという悩みを抱える企業に向けて、具体的な事例や判断材料を発信すること自体が、有効な支援になります。
SaaSを買うか、AIで内製するかは、もはや対立するのではなく、企業ごとの体制やコストに応じて組み合わせるものになるのではないかと思います。とりわけ、人材が限られる地方や中小企業にとっては、両者をどう使い分けるかの相談相手が、これから一層必要とされていくのではないでしょうか。
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